💰 積み立てたお金、いつ・どうやって取り崩す?【「4%ルール」の前に、日本には3つの出口があります】
この連載でこれまで書いてきたのは、ぜんぶ「お金を入れる話」でした。でも、増やしているのは最後に使うためです。「取り崩し」で検索すると、まず出てくるのは「4%ルール」。ただ、あれはアメリカのデータで、アメリカの税制を前提にした研究です。
日本に住んでいる私たちの出口には、NISA・課税口座・iDeCoという3つの箱があって、それぞれ出せる時期も、引かれる税金も、出したあとに起きることも違います。この記事では、率(何%取り崩すか)の話に入る前に、まず順番のほう——どの箱から出すかを決めるための材料を、法令と原典まで戻って並べます。どの順番が合うかは人によって違いますが、材料がないと順番は決めようがありません。
📌 本記事の制度・数値は2026年8月7日時点で確認できた法令および公的機関・業界団体の公表資料にもとづいています。税制も年金制度も変わります。とくに受け取り方によって税金の扱いが変わる部分は、実際に手続きをする前に、税務署または税理士にご確認ください。
🧭 「4%ルール」は、どこの国の、いつの話なのか
取り崩しについて調べると、ほぼ必ず「4%ルール」が出てきます。毎年4%ずつ取り崩せば、資産はだいたい30年もつ——そういう紹介のされ方をしている数字です。
ただ、原典まで戻ると、この「4%」には出どころが2つあります。しかも、よく一緒くたにされている2つは、使ったデータも、組んだ資産も、「成功」の定義すら違います。
| ベンゲン(1994年) | トリニティ・スタディ(1998年) | |
|---|---|---|
| 書いた人 | ウィリアム・P・ベンゲン(個人開業のファイナンシャル・プランナー) | クーリー/ハバード/ウォルツ(トリニティ大学) |
| 載った雑誌 | Journal of Financial Planning 1994年10月号 | AAII Journal 1998年2月号(米国個人投資家協会) |
| 組んだ資産 | 米国の普通株50%+中期国債50% | S&P500+長期の高格付社債(株の比率は5通り) |
| 見た期間 | 「最低30年もつこと」を基準に判定 | 15年・20年・25年・30年 |
| 「成功」の意味 | 資産が尽きるまでの年数が30年以上。いちばん悪かったケースが基準 | 過去の全期間のうち、終わった時点で残高が残っていた期間の割合(%) |
| 結論 | 初年度4%+以後は物価に合わせるなら、過去のどのケースでも33年より早くは尽きなかった。4.25%だと最短28年で尽きうる | 物価調整あり・30年・4%の成功率は、株75%債25%で98%、株100%と株50%債50%はどちらも95% |
※ 表は横にスワイプできます。
※ トリニティ・スタディの数字は1998年のAAII Journal版(1926〜1995年・年次データ)のものです。同じ著者が翌1999年に月次データ・1926〜1997年へ広げた版では、株75%債25%・30年・4%の成功率は100%になっています。同じ研究でも版によって数字が変わるので、どの版の話かを添えずに数字だけを見ると、別の資料を見た人と食い違います。
⚠️ よくある誤解は「毎年、資産残高の4%を取り崩す」という理解です。ベンゲンの原典は、はっきり違うことを書いています。4%を使うのは初年度だけで、2年目からは「前の年に引き出した金額+物価の変動ぶん」。つまり金額のほうを固定して物価にだけ合わせる方法です。残高の4%を毎年取り崩す方法(定率)は、資産が尽きにくい代わりに受け取る金額が毎年動く、まったく別のやり方です。
そして、日本に住んでいる読者として押さえておきたいのは、前提のほうです。
- 🇺🇸どちらもアメリカのデータだけを使っています。日本の株式や債券の成績は入っていません。
- 🧾税金の扱いが、2つで違います。トリニティ・スタディは「税も取引コストも調整していない」と論文に明記しています。一方ベンゲンは「退職資産はすべて課税繰延の口座にある前提」と書いていて、売っても、その時点では税金が引かれない箱の中の話として計算しています。ただしこれは税がかからないという意味ではなく、あとで受け取るときに払う設計です。日本でいえばiDeCoに近い考え方で、この記事の後半でまた出てきます。「どちらも税を無視している」と一括りにすると、ベンゲンについては言い過ぎになります。
- 📅30年をひとつの物差しにしています。65歳から95歳までを想定した長さで、それより長い前提の数字ではありません。
では、日本のデータで同じような検証をした公的な資料はあるのか。今回、金融庁・厚生労働省・日本銀行・財務省まで探しましたが、見当たりませんでした。(「存在しない」と言い切れるほど探し尽くしたわけではないので、あくまで調べた範囲での話です。)
私は、この数字を否定したいわけではありません。ただ、率だけを持ってきても、日本の出口では手取りが決まりません。先に決まってしまうものが、日本にはあります。
🗂 出口は「3つの箱」で、ルールがまるごと違う
多くの方が投資しているお金は、たいてい次の3つのどこかに入っています。そして、この3つは「取り崩す」という同じ言葉でくくれないくらい、出口の作りが違います。(会社の企業型DCに入っている方は、iDeCoと似た性格の箱がもう一つある、と考えて読んでみてください。出口のルールは近い作りです。)
| いつ出せるか | 出すときの税金 | 出したあとに起きること | |
|---|---|---|---|
| NISA口座 | いつでも | かからない | 翌年、使った枠が戻る(戻るのは買った値段ぶん) |
| 課税口座 (特定口座・一般口座) | いつでも | 利益に20.315% | 枠という考え方がない(いくら出し入れしても自由) |
| iDeCo | 原則60歳以降(条件により繰り下がる) | 受け取り方で税の種類が変わる(一時金=退職所得/年金=雑所得) | 受け取り始めると、掛金を出せなくなる |
※ 表は横にスワイプできます。
数字にしてみると、この違いはもっとはっきりします。同じ100万円ぶんを売って、手元にいくら残るかを並べてみます。
前提:売って受け取る代金が1,000,000円。そのうち買った値段が600,000円ぶんで、利益が400,000円入っているケース。
| NISA口座 | 課税口座 (源泉徴収あり) | iDeCo | |
|---|---|---|---|
| 売った代金 | 1,000,000円 | 1,000,000円 | — |
| そのうち利益 | 400,000円 | 400,000円 | 元本と利益の 区別がない |
| 引かれる税金 | 0円 | 81,260円 | 受け取り方(一時金か年金か)と その年の受取額で決まる |
| 手取り | 1,000,000円 | 918,740円 | この形では 計算できません |
※ 表は横にスワイプできます。
※ 課税口座の税額は 400,000円 × 20.315% = 81,260円。利益がいくら入っているかで差は変わります。同じ100万円でも利益が200,000円なら税金は40,630円です。
※ NISAの「0円」は税金の話です。信託財産留保額や売却時の手数料まで無料という意味ではありません。
iDeCoの列に金額を入れなかったのは、書き忘れではありません。iDeCoには「100万円だけ取り崩したときの手取り」という数字が、そもそも存在しないからです。理由は2つあります。
ひとつは、iDeCoには元本と利益の区別がないこと。掛金を出すときに全額が所得控除されている——つまり入口で税金を引かれずに入れているので、出口では受け取った金額の全部が課税の対象になります。NISAや課税口座のように「利益の部分にいくら」という計算軸が、最初からありません。
もうひとつは、税額が「どう受け取るか」と「その年にいくら受け取るか」で決まること。一時金でまとめて受け取るなら掛金を出していた年数が効いてきますし、年金として分けて受け取るなら年齢と受取額で決まります。100万円という金額だけを取り出しても、税金は決まりません。これは制度の欠陥ではなく、iDeCoが「投資の口座」ではなく「年金の制度」だからです。この違いは、このあとiDeCoのところでくわしく見ます。
💡 ついでに、同じ商品でも置き場所が違えば買値の数え方が変わります。税の世界では、特定口座に入っているものと、それ以外のものを「別の銘柄」として扱う決まりがあります(租税特別措置法施行令25条の10の2第1項2号)。だからA社とB社の特定口座に同じ投資信託を持っていても、「平均していくらで買ったか」は口座ごとに別々に計算されます。同じ課税口座のなかでさえ、置き場所しだいで利益の額が変わる——「箱でルールが違う」は、箱の中でも起きています。
※ いっぽう一般口座どうしなら、証券会社をまたいで合算して平均を出します(所得税法施行令118条)。
💴 NISAの「枠が戻る」は、売った金額ではない
2024年からのNISAの大きな特徴が、売れば枠が戻ってくることです。生涯で1,800万円という上限があっても、使い切りではない。ただ、この「戻る」については、押さえておきたい事実が3つあります。どれも取り違えられやすい部分です。
金融庁はこれを「簿価残高方式」と呼んでいます。買った値段の平均 × 売った口数、が戻る金額です。購入時の手数料は含みません。
※「簿価残高方式」は金融庁の説明で使われている言い方で、法律の条文にこの言葉があるわけではありません(条文では「特定累積投資勘定基準額」などと呼ばれています)。
※ 何度も売り買いをくり返している場合、買った値段の平均の出し方は少し複雑になります(直前に売った時点から計算し直すため)。
⚠️ ただし「売ったら、その年はもう買えない」と単純化するのも正確ではありません。買えなくなるのは「売って空いたぶんの枠」だけです。その年の360万円をまだ使い切っていないなら、売った直後でも、その残っている枠の範囲では買えます。
それから、出口の話は「売る」か「持ち続ける」かの二択で語られがちですが、3つめの道もあります。NISA口座から課税口座へ移すという方法です。ただしこのとき、その商品の「買った値段」は、移した日の値段に置き換わります。そこまでに育った利益は、その後の課税の計算からは外れます。同じ仕組みは、値下がりしているときには逆向きに働きます。下がったぶんは、そこで切り捨てになります。移すこと自体は損得どちらにも転ぶので、「そういう道もある」という事実として置いておきます。
なお、NISAで売った利益に税金がかからないのは、証券会社を通して売った場合です。お客様どうしで直接売買するような特殊な形だと非課税になりません。実際にはまず起きない話ですが、「必ず非課税」と言い切れない一点として。
👶 これから:2027年から、子どものNISAには「出口の鍵」がかかります。2027年からつみたて投資枠は0〜17歳も使えるようになります(年60万円・限度額600万円)。ただし出口には強い制限があります。原則として18歳になる年の前の年末までは、NISA口座の外へ払い出せません。12歳になる年以降は、入学金・授業料などの教育費や生活費の支払いにあてる場合に限って払い出せます(子ども本人の同意書が必要です)。それより前は、災害にあった場合など、さらに限られた場合だけです。ルールに反して払い出すと、その払い出したぶんは非課税ではなくなり、所得税15%・住民税5%が源泉徴収(特別徴収)されます。ここに復興特別所得税と防衛特別所得税が上乗せされるので、引かれるのは課税口座と同じ20.315%です。しかもその計算で損失が出てもなかったものとみなされます。「子ども名義でも自由に出し入れできる」と読める要約を見かけますが、条文はかなり厳格です。
🔒 iDeCoは、出口を開けると入口が閉じる
iDeCoは、3つの箱のなかで取り違えが多い箱です。「60歳になったら受け取れる」も、「70歳まで加入できるようになるから受け取りも遅くできる」も、どちらも正確ではありません。
60歳ですぐ受け取れるとは限らない
確定拠出年金法33条は、受け取りを請求できる年齢を加入していた期間の長さで区切っています。
| 請求するときの年齢 | 必要な期間 |
|---|---|
| 60歳以上61歳未満 | 10年 |
| 61歳以上62歳未満 | 8年 |
| 62歳以上63歳未満 | 6年 |
| 63歳以上64歳未満 | 4年 |
| 64歳以上65歳未満 | 2年 |
| 65歳以上 | 1か月 |
※ ここでいう期間は「通算加入者等期間」で、掛金を出さずに運用だけしていた期間も含まれます。ただし60歳になったあとの期間は数えません(法33条2項)。
※ 60歳を過ぎてから初めて加入した方は、加入した日から5年を経過した日から請求できます。
※ 受け取りを始める時期は、75歳になるまでの間で選べます。
つまり、50代から始めた方が「60歳になったから受け取ろう」と思っても、期間が足りなければ請求できる年齢が後ろにずれます。そして厄介なのは、60歳以降に積んだ期間はこの計算に入らないことです。
受け取り方で、税金の種類そのものが変わる
受け取り方は一時金・年金・その組み合わせの3つです(どこまで細かく分けられるかは加入先によります)。そして、この選択でかかる税金の種類が変わります。
- 💼一時金でまとめて受け取る → 退職所得
退職所得控除を引いて、さらに2分の1にしてから課税されます(掛金を出した期間が5年以下の場合は、この2分の1が使えない部分が出ます。すぐあとでご説明します)。控除額は勤続20年以下なら「40万円 × 年数」(80万円に満たないときは80万円)、20年を超えると「800万円 + 70万円 ×(年数 − 20年)」。
例:掛金を20年出した方なら控除は800万円。一時金が1,000万円なら、(1,000万円 − 800万円)× 1/2 = 100万円が退職所得になります。 - 📅年金として分けて受け取る → 雑所得(公的年金等)
公的年金等控除を引いて計算します。公的年金と合算されるので、国から受け取る年金の額によって税金が変わります。年金として受け取る場合、期間は5年以上20年以下から選ぶのが一般的です。
⚠️ ここでいう「勤続年数」は、iDeCoに入っていた期間ではなく「掛金を出していた期間」です(所得税法施行令69条1項2号)。掛金を止めて運用だけしていた期間は入りません。さきほどの受給年齢の表にある「通算加入者等期間」とは別の期間なので、混ぜないようご注意ください。なお、1年未満の端数は切り上げられます。
⚠️ そしてもう一つ。「2分の1」には例外があります。掛金を出した期間が5年以下だと「短期退職手当等」という扱いになり、退職所得控除を引いたあとの残額のうち300万円を超える部分は2分の1になりません(所得税法30条2項・4項)。iDeCoの一時金もこの判定の対象で、期間の数え方はさきほどと同じ(掛金を出した年数)です(所得税法施行令69条の2第3項、国税庁「短期退職手当等Q&A」)。さきほど「60歳を過ぎてから初めて加入した方は、加入した日から5年を経過した日から請求できます」と書きました。その方が5年で一時金を受け取ると、ここに当たる可能性があります(ただしこの5年は加入期間ではなく、掛金を出した年数で数えます)。
例:掛金を5年出して、一時金が600万円だったとします。控除は40万円 × 5年 = 200万円で、残りは400万円。そのうち300万円までは半分の150万円、超えた100万円はそのまま——合わせて250万円が退職所得です。ふつうの退職金なら400万円の半分で200万円ですから、50万円ぶん多く課税されます。
※ 300万円がかかるのは収入金額そのものではなく、退職所得控除を引いたあとの残額です。ここを取り違えている説明をよく見かけます。
※ さきほどの「掛金を20年出した方」の例は、掛金を出した期間が20年=5年を超えているので、この例外には当たりません。
会社の退職金と重なると、控除が削られることがある
退職所得控除は、近い時期にほかの退職金を受け取っていると、その期間ぶんが調整されます。ここは「◯年ルール」という呼び方で語られますが、どちらを先に受け取ったかで年数が違います。ネット上の説明で取り違えが多い部分です。
| 先に受け取ったもの | あとで受け取るもの | 調整される期間 |
|---|---|---|
| 会社の退職金 | 別の会社の退職金 | 前年以前4年内 (いわゆる5年ルール) |
| iDeCoの一時金 | 会社の退職金 | 前年以前9年内 (いわゆる10年ルール) |
| 会社の退職金 | iDeCoの一時金 | 前年以前19年内 (いわゆる19年ルール) |
※ 表は横にスワイプできます。根拠は所得税法施行令70条1項2号。
※ ここでの年数は控除を調整する期間の話で、さきほどの「2分の1」の判定(掛金を出した期間が5年以下かどうか)とは別ものです。
※ 真ん中の「10年」は、2026年(令和8年)分以後の所得税からの取り扱いです。しかも対象は令和8年1月1日以後に受け取ったiDeCoの一時金に限られます。2025年中に一時金を受け取った方は、これまでどおりの5年です。
※「2026年から、iDeCoと退職金は10年空けないといけない」という説明を見かけますが、10年になるのは「iDeCoが先」の場合だけで、「会社の退職金が先」なら以前から19年です。
そして、受け取り始めると掛金は出せなくなる
この記事でいちばんお伝えしたいのが、これです。iDeCoの老齢給付金を受け取り始めると、その時点でiDeCoには加入できなくなり、掛金を出せなくなります。しかも国の老齢基礎年金を受け取り始めた場合も同じです(厚生労働省資料)。
2026年12月から、iDeCoは70歳になるまで加入できるようになります(誰でも自動的に、ではなく、条件があります)。ただし受け取りを始められる年齢(60歳〜75歳)そのものは変わりません。変わるのは入口の年齢のほうです。「70歳まで入れるようになるから、受け取りも遅くできる」という理解は逆で、実際に起きるのは——
🔒 出口を1つ開けると、入口が1つ閉じる。
だから「いつから受け取るか」は、受け取り側だけの話ではありません。まだ掛金を出し続けたいのかどうかと、セットで決まってしまいます。
※ なお、老齢基礎年金を繰り下げて、老齢厚生年金のほうを受け取っている方は加入できるとされています(厚生労働省資料)。ここも「どちらを先に開けるか」の話です。
受け取り方をめぐる話をもうひとつ。地味ですが効いてくるのが受け取りのたびにかかる手数料です。受け取る金額から1回につき数百円(多くの場合440円)が引かれます。金額そのものは小さいのですが、大事なのは回数のほうです。一時金なら1回きり。年金で年6回ずつ20年受け取れば、120回ぶんかかります。取り崩し方の選択が、そのままコストになるということです。(金額は加入先によって異なります。)
📉 定額で出すか、定率で出すか
箱の話が片づいたら、ようやく「どうやって出すか」です。方法は大きく2つ。毎回同じ金額を売る(定額)か、毎回、残高の一定割合を売る(定率)か。(残高の一定割合を売るということは、結果として口数も毎回同じ割合ずつ減るということです。ここがあとで効いてきます。)
定額のほうには、知っておくと納得しやすい性質があります。値段が下がっているときほど、同じ金額をつくるために多くの口数を売ることになる。積み立てのときに「安いときにたくさん買える」と説明されたのと、ちょうど裏返しの現象です。
⚠️ ただし、これは「毎回同じ口数を売る方法」と比べたときの話です。定率(このあとすぐくわしく説明します)と比べた話ではありません。定率は売る口数が値段に左右されない(残っている口数の一定割合を売るだけ)ので、そもそもこの現象が起きません。ここを混ぜると、比べている軸そのものが入れ替わってしまいます。
基準価額が 10,000円 → 5,000円 → 10,000円 と動いた3か月。左は毎月10,000円ぶんを売る方法、右は毎月1口ずつ売る方法です。
| 月 | 基準価額 | 毎月10,000円ぶん売る | 毎月1口ずつ売る |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 10,000円 | 1.0口 売ることになる | 10,000円 受け取る |
| 2か月目 | 5,000円 | 2.0口 売ることになる | 5,000円 受け取る |
| 3か月目 | 10,000円 | 1.0口 売ることになる | 10,000円 受け取る |
| 3か月の合計 | — | 30,000円 / 4.0口 | 25,000円 / 3.0口 |
| 1口あたり | — | 7,500円 | 約8,333円 |
※ 表は横にスワイプできます。
※ この2つは、受け取った合計金額も、減った口数も一致しません。比べているのは「1口あたりいくらで売ったことになるか」だけです。
※ 毎月同じ金額を売るほうが、1口あたりの売値は低くなります(30,000円 ÷ 4.0口 = 7,500円。25,000円 ÷ 3.0口 = 約8,333円)。安い月に多く売っているぶん、平均が引き下げられるためです。
つまり、同じ口数ずつ売る方法と比べると、定額のほうは1口あたり安く売ったことになります。積み立てのときに味方をしてくれた性質が、出口では向きを変える。「定額は不利」と言われるのは、この比べ方をしたときの話です。
では定率はどうか。毎回、残っている口数の一定割合しか売らないので、理屈のうえでは資産がゼロになりません。そのかわり、受け取れる金額が毎回変わります。相場が下がった月は、受け取る額もそのぶん減る。生活費に充てるつもりなら、そこが効いてきます。
どちらが正しい、という話ではありません。金額を安定させたいなら定額、資産を長持ちさせたいなら定率——という、性格の違いです。ちなみに冒頭の4%ルールは、初年度だけ4%で以後は物価に合わせるやり方なので、この2つでいえば定額に近いほうに入ります。
💡 制度の側でも、出口に動きがありました。つみたて投資枠の対象商品は「売買手数料ゼロ」が条件でしたが、2026年4月1日から、定期的に売却していくサービスに限って、手数料を取ることが認められました(改正されたのは内閣府告示で、法律や政令が変わったわけではありません)。「つみたて投資枠は一切ゼロ」とは、もう言い切れません。取り崩しを自動化するサービスは各社にありますが、選べる方式も手数料も会社ごとに違うので、ご自身の口座で確認してみてください。
🏛 取り崩す額は、売り方だけでは決まらない
ここまで「どう売るか」を書いてきましたが、取り崩す額は、売り方だけで決まるわけではありません。取り崩しでまかなう金額そのものを動かすものが、少なくとも2つあります。
1つめ:公的年金を、いつから受け取るか
公的年金は原則65歳からですが、早めることも遅らせることもできます。
| 繰下げ(遅らせる) | 繰上げ(早める) |
|---|---|
| 66歳〜75歳まで 1か月あたり0.7%増える 75歳まで丸10年(120か月)待つと84% | 60歳〜65歳になるまで 1か月あたり0.4%減る 60歳から受け取ると24.0%減 |
※ 繰上げの0.4%は昭和37年4月2日以後生まれの方の率です(それ以前に生まれた方は0.5%)。繰下げの上限75歳・最大84%も、昭和27年4月2日以後生まれの方が対象です。
※ 加給年金額や振替加算は増額の対象になりません。しかも繰下げを待っているあいだは、これらを受け取ることができません。
※ 繰上げの請求は、あとから取り消せません。
この率が得か損かは、何歳まで生きるかで変わります。だから私はここに答えを書きません。ただ、繰上げだけは取り消せない——この一点は、事実として置いておきたいと思っています。
なお、年金にも税金はかかります(雑所得)。ただし公的年金等控除があり、65歳以上なら年110万円までは所得がゼロになります(年金以外の所得が1,000万円以下の場合)。ちなみに2027年分からは、給与と年金の両方がある方について、給与所得控除と公的年金等控除の合計に280万円という上限が入ります。いま働きながら年金を受け取ることを考えている方は、頭の片隅に。
2つめ:売らずに受け取る形もある
配当や分配金は、自分で売らなくてもお金を受け取れる形です。ただし分配金の記事で書いたとおり、投資信託の分配金は自分が出したお金が戻ってきているだけのことがあります。「売っていないから減っていない」とは限らない。受け取り方の見た目と、資産が減ったかどうかは別の話です。
🙋 私の場合
正直に書くと、私はまだ出口を迎えていません。ここに書けるのは、迎えた人の実感ではなく、いまの時点で決めたこと・決めていないことだけです。
世間では「4%で取り崩せば大丈夫」という話をよく見かけます。目安があるほうが動き出しやすいのは確かで、そう考える気持ちはよく分かります。ただ私の場合は、率のほうを、いま決めても自分が使いこなせる気がしていません。何歳まで働くのか、そのとき年金がいくらなのか、税制がどうなっているのか。どれも決まっていない状態でいま決めた率を、あとで自分が信じられるかどうか、自信がない——というだけの話です。
かわりに、順番のほうを考える枠だけはあります。というより、持っているものの性格上、半分は先に決まっている面があります。いま金額がいちばん多いのはインデックスの投資信託で、それとは別に日本の高配当株も持っています(ほかにも少しずつありますが、中心はこの二つです)。分けているのは、老後にまとまった金額があることと、いま元気なうちに使えるお金があることは、自分の中では別のものだと思っているからです。どちらをどの箱で持っているかも、そのぶん分かれます。だから出口の設計というより、どの箱をどういう順で開けることになりそうか、という問題として考えている、というのが実際のところです。
2019年に投資を始めたころの私なら、たぶんこの記事を読んでも「まだ先の話だ」と思って閉じていたはずです。実際、そのころは少し下がっただけで、持っていた個別株を投げ売りしています。入口であれだけ慌てた自分が、出口だけ完璧に設計できるとは思っていません。だから、いまは順番の地図だけ持っておこう、という距離感でいます。
それに、この記事を書きながら意外だったのは、iDeCoは受け取り始めると掛金が出せなくなるという一点でした。出口を開けると入口が閉じる。これは率をいくら精密に決めても出てこない話で、制度の側を読まないと気づけませんでした。
📝 まとめ
順番に正解はありません。ただ、順番を決めるための材料は、ここまでで出そろいました。
- 🧭4%ルールはアメリカの研究で、原典は2つあります。しかも「毎年、残高の4%」ではなく「初年度だけ4%、以後は物価に合わせた金額」。日本のデータで同じ検証をした公的資料は、今回調べた範囲では見当たりませんでした。
- 🗂出口は3つの箱で作りが違います。NISAは税ゼロで翌年に枠が戻る。課税口座は利益に20.315%。iDeCoはそもそも「100万円だけ取り崩した手取り」が計算できない——受け取り方(一時金か年金か)と、その年にいくら受け取るかで税が決まる年金の制度だからです。
- 💴NISAで戻る枠は「買った値段」ぶん。売った金額ではありません。しかも戻るのは翌年で、1年に買える360万円が増えるわけでもありません。
- 🔒iDeCoは受け取り始めると、掛金を出せなくなります。国の老齢基礎年金を受け取り始めた場合も同じです。受け取る時期は、受け取り側だけの都合では決められません。
- 📉定額は受け取る金額が安定し、定率は理屈のうえでは資産がゼロになりません。そのかわり、定率は受け取る額が毎回変わります。なお「定額は積み立ての逆で不利」と言えるのは、毎回同じ口数を売る方法と比べたときだけです。
- 🏛取り崩しでまかなう額は、売り方の外側でも動きます。年金の受け取り時期と、配当・分配金。ただし繰上げは取り消せず、分配金は「減っていない」とは限りません。
- 🧮率の話は、この材料のあとでも間に合う——私はそう考えています。先に効くのは、どの箱がどんな出方をするかのほうでした。
出口の話は、その日が来てから考えるものだと思っていました。でも調べてみたら、その日に決められないことのほうが多かったんです。受け取り始めた瞬間に閉じる入口があり、取り消せない請求があり、10年単位で効いてくる年数がある。率は、そのときの自分が決めればいい。ただ順番だけは、いまのうちに地図にしておきたい。私はそのくらいの構えで、この記事を書きました。
・投資の利益にかかる税金、結局いくら引かれる?(20.315%の正体)
・iDeCoと新NISA、どっちが先?(iDeCoの入口の話)
・投資信託の分配金、あのお金はどこから来ている?(売らずに受け取る形)
・新NISA、結局なにから始めればいい?(つみたて枠と成長枠の違い)
・経済用語辞典(ニュースに出てくる言葉をやさしく)
以下の一次資料で照合して作成しています。
- e-Gov 法令検索(所得税法、所得税法施行令、租税特別措置法、租税特別措置法施行令、確定拠出年金法、復興特別所得税・防衛特別所得税の各根拠法)
- 国税庁(タックスアンサー No.1420 退職金を受け取ったとき、No.1600 公的年金等の課税関係、令和8年版 源泉徴収のあらまし、短期退職手当等Q&A、租税特別措置法通達)
- 金融庁(NISA特設サイト、NISAの抜本的拡充・恒久化のイメージ、「非課税口座に受け入れることができる上場株式等の範囲に関する基準」の一部改正について)
- 財務省(令和8年度税制改正の大綱、令和8年度税制改正)
- 厚生労働省(iDeCoの加入可能年齢の引き上げ)、国民年金基金連合会(iDeCo公式サイト、手数料の見直しに関するお知らせ)
- 日本年金機構(年金の繰下げ受給、年金の繰上げ受給)
- 日本証券業協会(2024年以降のNISAに関するQ&A)
- William P. Bengen “Determining Withdrawal Rates Using Historical Data”(Journal of Financial Planning, 1994)
- Cooley, Hubbard & Walz “Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable”(AAII Journal, 1998)および同著者による1999年版
【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融機関・金融商品の利用や購入を推奨するものではありません。また、投資助言および個別の税務相談を行うものでもありません。税金や年金の取扱いは、お一人おひとりの状況によって異なります。とくに退職所得控除や公的年金等控除の適用、受け取り時期の選択については、所轄の税務署、税理士または年金事務所にご確認ください。制度・数値は2026年8月7日時点で確認できた法令および金融庁・国税庁・財務省・厚生労働省・日本年金機構・国民年金基金連合会・日本証券業協会などの公表資料にもとづきますが、税制も年金制度も変更されることがあります。投資判断はご自身の責任で行ってください。


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