🏢 企業型DC・マッチング拠出・持株会、何がちがう?【辞めたあとで止まっている人が138万人います】
新しいNISAやiDeCoの話はいくらでも見つかるのに、自分の会社の中にある制度だけは、まとまった説明を聞いた記憶がない。入社のときに分厚い資料をもらった気はするけれど、中身は覚えていない――そんな方は少なくないと思います。
今回はその3つ、企業型DC・マッチング拠出・従業員持株会を並べて、条文と公的な統計から確かめました。並べてみると、お金を出しているのが「会社」なのか「自分」なのか「自分と会社の両方」なのかがそれぞれ違い、あわせて税の通り道も3つとも別でした。そして調べているうちに、思っていたのと違う場所に穴があることが分かりました。話題が集まるのは商品選びですが、止まったままになっているのは、会社を辞めたあとでした。
📌 本記事の制度・数値は2026年8月14日時点で確認できた法令および公的機関・業界団体の公表資料にもとづいています。個別の金融機関名・企業名には触れません。これらの制度は中身の多くが「会社の規約」で決まるため、同じ制度名でも会社ごとに条件が違います。実際の手続きの前に、お勤め先の規約やご案内でご確認ください。
🏢 入った記憶がないまま始まっているものと、自分で申し込まないと始まらないもの
まず、どのくらいの人が関わっている話なのかを確かめました。企業型DC(企業型確定拠出年金)の加入者は862万人です。実施している事業所は58,326社、預かっている資産は23兆8,201億円にのぼります(いずれも2025年3月末)。
一方、従業員持株会の加入者は330.2万人。東京証券取引所の調査で集計対象になった3,265社の従業員数に対して40.12%にあたります(2025年3月31日現在)。
数を並べてすぐ気づくのは、この2つは始まり方の向きが逆だということです。企業型DCは、会社がその制度を導入していれば、規約で定められた範囲の従業員が加入者になります。加入するかどうかを本人が選ぶ形をとる会社もありますが、自分から申し込まないかぎり始まらない、という作りではありません。それに対して持株会は、自分で入会を申し出ないかぎり、何も起こりません。
つまり企業型DCのほうは、「入った記憶がないのにもう始まっている」という状態が起こりえます。実際、企業型DCには「本人が運用商品を選ばないまま時間が過ぎたときにどうするか」を決めた条文まであります。そういう条文がわざわざ用意されていること自体が、この制度の性格を表しています。
🔎 先に書いておきます。この記事に体験談は出てきません。同じ制度名でも会社ごとに条件が違うので、誰か一人の体験が、そのまま他の人に当てはまらないからです。かわりに条文と、公表されている統計・資料だけを頼りに、制度の中身そのものを見にいきます。
💴 出すのは「会社」か「自分」か「自分と会社の両方」か、3つとも別です
「会社の制度」とひとまとめに呼ばれますが、条文を読むと、この3つはお金を出している人の組み合わせがそれぞれ別です。会社が出すもの/自分が出すもの/自分が出して会社が上乗せするものの3通りで、あわせて税の通り道も3つとも別になります。ここが分かれると、あとの違いはだいたい説明がつきます。
| 企業型DC (会社が出す掛金) | マッチング拠出 | 従業員持株会 | |
|---|---|---|---|
| お金の出どころ | 会社のお金 この掛金を給与から差し引いて本人に負担させることは認められていません |
自分の給与 会社が給与から控除して納めます |
自分の給与・賞与 そこに会社からの奨励金が上乗せされます |
| 出すときの所得税・住民税 | かからない 給与としての収入に含めない扱い |
全額が所得控除 小規模企業共済等掛金控除 |
控除なし 税を引かれたあとの給与から拠出。奨励金は給与として課税 |
| 運用しているあいだの税 | 運用益に課税されない | 同じ(会社の掛金と一体で管理) | 配当は課税される そのうえで再投資されます |
| 途中で引き出せるか | 原則できない 受け取りは原則60歳から |
同じ | いつでも退会できる ただし持分が売買単位に届くまでは株のまま引き出せません |
| NISAで持てるか | そもそも別の制度 NISAとは口座がちがいます |
持てません 成長投資枠に受け入れることも、あとから移すこともできません |
|
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。根拠は確定拠出年金法・同施行令、所得税法および同施行令、厚生労働省「確定拠出年金Q&A」(2026年4月1日現在)、日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」(2025年6月12日改正)および同協会「2024年以降のNISAに関するQ&A」(2025年9月)です。
いちばん性格が違うのは、左の列です。企業型DCで会社が出す掛金は、給与ではありません。厚生労働省のQ&Aは、この掛金を給与から差し引くなどして本人に負担させることはできない、としています。だからこそ税もかからず、社会保険料の計算にも入りません。そもそも本人に支払われていないお金だからです。
真ん中と右は、自分が出す部分は同じです。どちらも自分の給与から出ていて、ちがうのは税を引かれる前か、あとか。マッチング拠出は全額が所得控除になります(小規模企業共済等掛金控除)。持株会の拠出金には、その仕組みがありません。そのかわり、右にだけ会社の奨励金が上乗せされます。ここが3つ目の組み合わせです。ただしその奨励金は、受け取った時点で給与として課税されます。同じ「会社が上乗せしてくれるもの」でも、税の通り道が正反対なのです。
🔄 マッチング拠出のいちばん有名な制限は、この4月に無くなっていました
マッチング拠出を検索すると、ほぼ必ず出てくる説明があります。「自分が出せる額は、会社が出してくれる額を超えられない」というものです。会社の掛金が月1万円なら、自分も月1万円まで。この制限のせいで「使いたくても大した額を出せない」と書かれている解説も、いくつも見つかります。
今回、この制限が現行のルールなのかを確かめたところ、2026年4月1日をもって、すでに撤廃されていました。
| 時期 | かかっていた条件 | 自分が出せる上限 |
|---|---|---|
| 2026年3月まで | ①会社の掛金を超えない ②合計が限度額以内 | 月10,000円(①で頭打ち) |
| 2026年4月から | ②合計が限度額以内だけ | 月45,000円(55,000円 – 10,000円) |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。数字は仕組みを示すための例で、実際の会社の掛金も限度額も会社ごとに異なります。限度額は、確定給付企業年金などの他の企業年金がある会社ではその分だけ低くなります。なお2026年12月からは、会社員の限度額が月62,000円に変わります(企業年金やiDeCoと合わせた共通の限度額になります)。また、2024年12月の改正前から企業型DCを実施していた会社には、差し引いた結果が月27,500円を下回っても月27,500円までは出せるという下支えの措置があり、これは2026年12月以降も続きます(会社が規約を変更すると終わります)。
根拠は2つあります。ひとつは政令の条文そのものが入れ替わっていたことです。確定拠出年金法施行令の同じ箇所を新旧で読み比べると、2024年12月時点では「加入者の掛金の額が事業主掛金の額を超えないように」となっていた部分が、2026年4月からの条文では「合計額が拠出限度額を超えないように」に置き換わっています。「会社の掛金を超えない」という前提そのものが、条文から消えています。
もうひとつは、厚生労働省が2026年3月27日付で出した事務連絡です。ここで「事業主掛金の額と加入者掛金の額の比較はいつの時点で行うのか」というQ&Aが、まるごと削除されています。比べる必要がなくなったから、その問いごと無くなった、ということです。適用は2026年4月1日からと明記されています。
⚠️ ただし「制度が変わったこと」と「あなたの会社で使えること」は別です。加入者が出す掛金をどう決めるかは会社の企業型年金規約に書いてある事項なので、会社が規約を変えていなければ、選べる金額は今までのままです。どのくらいの会社が対応済みなのかを示す統計は、今回は見つけられませんでした。また、検索して出てくる解説の多くは、まだ古いルールのままです。ご自身の会社の案内と食い違って見えても、どちらかが嘘というより、時点がちがう可能性があります。
では、そのマッチング拠出はどのくらい使われているのか。ここも数えてみると、思ったより静かでした。
導入している割合は、規約の数でみれば7,432件のうち3,026件(40.7%)。ところが事業所の数でみると58,326社のうち11,778社(20.2%)になります(いずれも2025年3月末)。分母を変えると4割にも2割にもなるので、「マッチング拠出は◯割の会社が導入」という数字を見かけたら、どちらの数え方かを確かめる価値があります。
そして実際に自分の掛金を出している人は140.9万人。制度がある会社で出せる立場にいる人(413.5万人)のうち34.1%で、企業型DCの加入者862万人から見れば16.3%です(2025年3月末)。6人に1人、という言い方もできます。出している人の掛金は1人あたり月8,000円でした(2025年3月の1か月分)。
もうひとつ、マッチング拠出には今も残っている制限があります。自分の掛金を出している人は、iDeCoに加入できません。2026年12月に限度額の決め方が変わったあとも、この決まりは維持されます。ただしよく混同されるのですが、「マッチング拠出の制度がある会社の人はiDeCoに入れない」ではありません。制度があっても自分の掛金を出していない人は、iDeCoに加入できます。境目は制度の有無ではなく、実際に出しているかどうかです。iDeCoと新NISAの順番についてはこちらの記事で扱いました。
🩹 「社会保険料も安くなる」は、たぶん別のやり方の話です
マッチング拠出の説明を読んでいると、「給与から天引きされるので、社会保険料の計算からも外れる」という趣旨の記述をよく見かけます。ここを確かめるのに、いちばん時間を使いました。
条文の作りからいうと、この説明は成り立ちません。確定拠出年金法は、事業主は加入者の掛金を「給与から控除することができる」と定めています。つまりいったん給与として支払ったうえで、そこから差し引いている形です。給与の額そのものを減らしているわけではないので、社会保険料の計算の土台が下がる仕組みにはなっていません。
では、なぜそういう説明が広まっているのか。社会保険料が下がるのは、別のやり方の企業型DCだからだと思われます。給与や賞与そのものを減額して、その減らした分を掛金にする方式です。こちらは給与の額が下がるので、たしかに社会保険料も下がります。ただし厚生労働省のQ&Aは、その場合について会社が従業員に説明すべきこととして、こう書いています。
「厚生年金保険・健康保険の標準報酬月額や雇用保険の基礎手当日額等が引下げられること等により、これらを用いて算定される社会保険・雇用保険等の給付が減額する可能性があることを説明する必要がある」(厚生労働省「確定拠出年金Q&A」より)
つまり払う保険料が減れば、そこから計算される給付も減ることがあるということです。将来の年金だけではありません。病気で働けないときの傷病手当金も、仕事を辞めたときの失業給付も、同じ土台から計算されています。失業給付や傷病手当金がどこまでを守ってくれるのかは、生活防衛資金の記事で詳しく見ました。
ひとつ正直に書いておきます。「マッチング拠出は社会保険料に影響しない」と一文で明記した公的機関の文書は、今回見つけられませんでした。条文の作りからはそう読めますし、給与を減額する方式との違いは公的な資料ではっきりしていますが、そのものずばりの根拠にはたどり着けていません。ですので、ここは「税は軽くなるが、社会保険料が安くなる仕組みではない」までにとどめておきます。
🏬 持株会は入るのは簡単で、やめるときだけ急に自分の判断になります
持株会でよく語られるのは奨励金です。給与から拠出した額に、会社が上乗せしてくれるお金。実態を東京証券取引所の調査で見ると、こうなっていました。
| 拠出額に対する奨励金 | 会社数 | 割合 |
|---|---|---|
| 10%(1,000円につき100円) | 1,391社 | 42.6% |
| 5% | 873社 | 26.7% |
| 20% | 240社 | 7.4% |
| 30% | 50社 | 1.5% |
| 奨励金なし | 111社 | 3.4% |
| 支給している会社の平均 | 拠出額の約10.7%(1,000円につき107.24円) | |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。東京証券取引所「2024年度従業員持株会状況調査結果の概要について」(2026年2月16日公表)より。調査対象は東証上場の内国会社3,956社のうち、大手証券5社のいずれかに持株会の事務を委託している3,265社です(それ以外に委託している持株会は含まれていません)。奨励金は買付手数料などへの補助を除いた金額です。該当する会社数の多い金額のみを抜き出しているため、割合の合計は100%になりません(残りの約18%は、これ以外のさまざまな割合を支給している会社です)。
いちばん多いのは拠出額の10%で、4社に1社以上が5%。平均は約10.7%でした。この上乗せがあるのは、たしかにほかの制度にない特徴です。ただし、これは利回りではありません。買った時点で上乗せがあるという話であって、その後の株価とは別の話ですし、奨励金そのものが給与として課税されます。
仕組みの側も見ておきます。従業員持株会は、日本証券業協会のガイドラインで民法上の組合と位置づけられています。買った株は理事長の名義でまとめて管理され、各会員は持分を持つ形です。自分の持分が売買単位(単元)に届くまでは、自分の名義に書き換えることができません。
買い方も決まっています。ガイドラインは「一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に」買い付けることを求めていて、理事長や事務局の裁量で売買することを認めていません。この「個別の判断で買っていない」という形が効いてきます。
というのも、勤め先の株を買うことには、本来インサイダー取引規制がついてまわるからです。持株会の定時定額の買付は、金融商品取引法とその内閣府令で、規制の適用除外とされています。決まった計画どおりに、個別の判断なしに、毎月同じように買っているからです。府令はあわせて、1回あたりの拠出額が200万円に満たないことも条件にしています。
🚨 ただし、この適用除外は「買うこと」にしか及びません。府令が定めているのは買付けを行う場合だけです。退会にともなって持分を売る場合は、適用除外の対象外で、通常どおり規制がかかります。さらにガイドラインは、拠出金額を変えたい会員がその時点で未公表の重要事実を知っている場合には変更できないとしています。「持株会だからインサイダー規制は関係ない」ではありません。入ったあとの毎月の買付は自動でも、やめるとき・金額を動かすときは、自分の判断の話になります。
ほかにも、退会にはいくつか決まりがあります。いつでも退会できる一方で、一度退会した人は原則として再入会できません。退会するとき、単元に届いている分は自分の名義に書き換えられますが、単元に届かない端数の分は自分の名義では引き出せず、時価で売って現金にするなどの方法をとることになります。ちなみに持株会から株式を引き出すこと自体には課税関係が生じません。税金がかかるのは売ったときです。投資の利益にかかる税金の仕組みはこちらの記事でまとめています。
🧨 勤め先が立ちゆかなくなったとき、資産の居場所は2つに分かれます
ここが、今回いちばんきれいに差が出たところでした。
確定拠出年金法は、事業主に対して、給付に充てる積立金について信託会社・信託銀行・生命保険会社などとの契約を結ばなければならないと定めています。掛金は会社の手元に置いておけないのです。その結果として、企業型DCの資産は会社の財産とは別のところにあります。あわせて同法は、給付を受ける権利を譲り渡したり、担保に入れたり、差し押さえたりすることはできないとも定めています。
持株会のほうには、こうした仕組みがありません。持株会が持っているのは、その会社の株式そのものだからです。会社が傾けば、株式の価値も一緒に動きます。給与を受け取っている先と、資産を置いている先が、同じ一社になるということです。
| 企業型DC(マッチング拠出を含む) | 従業員持株会 | |
|---|---|---|
| 資産が置いてある場所 | 信託銀行・生命保険会社など 法律で契約の締結が義務づけられています | その会社の株式そのもの 理事長名義でまとめて管理 |
| 中身 | 投資信託・預金・保険など 個別の株式や自社株ファンドなどを並べる場合は、ほかの分類から3つ以上そろえる義務があります | 勤め先の株式のみ |
| 収入源との関係 | 給与とは別の場所に置かれる | 給与と同じ一社に集まる |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。確定拠出年金法および同施行令、日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」より。法律に「倒産から守る」と書いてあるわけではなく、掛金を会社の外に預けることが義務づけられている結果として、会社の財産と切り離されているという順番です。
では「給与と資産が同じ会社に集中する」ことについて、日本の公的機関はどう言っているのか。ここも探しました。日本証券業協会のガイドライン、東証の調査、企業年金連合会の投資教育のハンドブックまで当たりましたが、そのことに触れた記述は見つけられませんでした。ガイドラインが挙げている持株会の目的は「従業員の福利厚生の増進」と「経営への参加意識の向上」で、集中についての注意はありません。
公的な出どころが見つからない、という場面はこれで4回目です。生活防衛資金の「3カ月分」も、毎月の積立額の「手取りの◯割」も、資産配分の「100から年齢を引く」も同じでした。ただ今回は、少しだけ違いました。探していた持株会の側ではありませんが、企業型DCのほうに、自社株の偏りに触れた条文がありました。
確定拠出年金法施行令は、運用商品として個別の株式や自社株ファンドなどを選ぶ場合には、それ以外の分類から3つ以上の運用方法を選ばなければならないと定めています。「自社の株だけを並べてはいけない」という趣旨のルールが、こちらにはあるのです。
ちなみにアメリカでは、2006年の年金保護法が、確定拠出型の年金プランについて自社株を売って他の商品に振り替える権利を加入者に保障している、と説明されています。日本の従業員持株会に、これにあたる仕組みは見当たりませんでした。集中させるかどうかも、どこで止めるかも、いまのところ本人の判断にゆだねられているということになります。株の中でどう分散を考えるかは、全部株でいいの?の記事でも扱いました。
🚪 話題は商品選びに集まりますが、止まったままなのは辞めたあとでした
企業型DCの話題は、たいてい「元本確保型に置いたままでいいのか」に集まります。たしかにその数字もあります。企業型DCの資産のうち預貯金と保険で30.3%。人数でみると、加入者862万人と、掛金の拠出を終えて運用だけを続けている運用指図者42.5万人を合わせた904.5万人のうち21.2%(約192万人)が、資産の全部を元本確保型で持っています(2025年3月末)。なお運用指図者は、その99.8%が60歳以上です。
ただ、条文と統計を並べて見ていて、それより人数は少ないのに、中身がほとんど知られていない場所に行き当たりました。しかもこちらは、本人が選んだ結果ではなく、手続きが終わっていないというだけの状態でした。
| 時点 | 自動移換者数 |
|---|---|
| 2021年3月末 | 100万人 |
| 2022年3月末 | 108万人 |
| 2023年3月末 | 118万人 |
| 2024年3月末 | 129万人 |
| 2025年3月末 | 1,382,661人(138万人) |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」(令和7年3月末現在)より。2026年3月末の数字は、2026年8月14日時点でまだ公表されていません。
会社を辞めたあと、決められた期間内に資産を移す手続きをしないと、その人の年金資産は国民年金基金連合会に移されます。これを自動移換といいます。その人数が138万人。しかも毎年10万人前後ずつ増えています。
ただし、この数字はよく「138万人分の年金が宙に浮いている」という言い方をされます。内訳を見ると、そう単純ではありませんでした。
| 資産額 | 138万人に占める割合 |
|---|---|
| 0円 | 43.9%(約60万人) |
| 25万円以下 | 35.7% |
| 25万円超50万円以下 | 8.8% |
| 50万円超100万円以下 | 6.0% |
| 100万円超200万円以下 | 3.3% |
| 200万円超 | 2.3% |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。出典は同じく国民年金基金連合会「制度の概況」(令和7年3月末現在)。自動移換されている資産の総額は公表を確認できなかったため、金額は書いていません。
138万人のうち、43.9%にあたる約60万人は、資産額が0円です。残高が残っているのは約78万人で、その78万人にかぎってみると約6割が25万円以下です(表の35.7%は138万人を分母にした割合です)。「138万人分の年金が宙に浮いている」という言い方は、4割強が中身ゼロだという事実を落としています。逆に言えば、お金を持ったまま止まっているのが78万人いる、ということでもあります。
では、自動移換されると何が起きるのか。運営している側の説明は、はっきりしています。
「無利息の現金の状態で管理されますので、運用の指図ができない(運用機会を逸する)一方で管理手数料は差し引かれることになります」(特定運営管理機関の案内より)
引かれる手数料は、移されるときに3,300円と1,048円で合わせて4,348円。そのあと毎月98円がかかります(移された月の4か月後から発生し、年に1回まとめて差し引かれます)。このうち2026年4月に改定されたのは毎月98円のほうで、移されるときの4,348円は変わっていません。運用は止まっているのに、手数料だけが動き続ける状態です。
そしてもうひとつ、金額よりも影響が大きいかもしれない点があります。自動移換されているあいだの期間は、「通算加入者等期間」に算入されません。この期間は、何歳から受け取れるかを決めるものです。
| 通算加入者等期間 | 受け取りを始められる年齢 |
|---|---|
| 10年以上 | 60歳 |
| 8年以上10年未満 | 61歳 |
| 6年以上8年未満 | 62歳 |
| 4年以上6年未満 | 63歳 |
| 2年以上4年未満 | 64歳 |
| 1か月以上2年未満 | 65歳 |
※ 画面の幅によっては、表を横にスワイプできます。確定拠出年金法より。通算加入者等期間は、企業型・iDeCoそれぞれの加入者だった期間と運用指図者だった期間の合計です。自動移換されているあいだは、このどれにも当てはまりません。また、受け取れる年齢になっていても、自動移換されたままでは請求ができず、先にiDeCoなどへ移す必要があります。
つまり止まっているあいだ、時計も止まっているということです。10年たてば60歳から受け取れるはずだった人が、そのうち5年が自動移換の期間だったなら、その5年は数に入りません。
効いてくるのは受け取れる年齢だけではありません。確定拠出年金を一時金で受け取るときの退職所得控除は、掛金を出していた加入者期間の長さで計算されます。自動移換のあいだは掛金を出していないので、この年数にも入りません。ただしこれは自動移換にかぎった話ではなく、掛金を止めて運用だけしていた期間も同じ扱いです。
なお、資産額が0円の人が4割強いることと、この手数料の仕組みを結びつけて説明したくなりますが、そう書いてある公的な資料は見つけられませんでしたので、ここでは並べるだけにとどめます。
期限についても、正確に書いておきます。よく「退職から6か月」と説明されますが、条文は「加入者の資格を喪失した日が属する月の翌月から起算して6か月」です。起算されるのが退職日ではないので、同じ「6か月」でも、いつ辞めたかによって実際の余裕はひと月近く変わります。
救いもあります。自動移換された人が転職先で企業型DCの加入者になったときは、本人の申出がなくても、連合会がその資産を新しい企業型DCへ移すという条文が2018年に作られました。ただしiDeCoへは自動では移りません。本人の申出が必要です。実務でも記録の照合が要るので、「転職すれば勝手に戻る」とまでは言えません。戻すときの手数料は550円です。
🧭 3つに共通していたのは、終わり方でした
世の中では「会社の制度は、使えるものは全部使ったほうが得」と説明されることが多いと思いますし、その理屈は分かります。会社が上乗せしてくれるお金や、税がかからない仕組みには、たしかに個人では作れない良さがあります。
ただ、今回いちばん引っかかったのは、そこではありませんでした。3つとも、入り口の案内は制度の側に用意されているのに、出るときに何をすればいいのかは、条文と手数料の案内を自分でたどるしかありませんでした、ということのほうです。自動移換の138万人も、退会したら原則として再入会できないという持株会の決まりも、全部「終わり方」の話でした。案内があるのは入り口までで、終わりは自分の側にある。その非対称が、この3つに共通していました。
これは、会社が掛金を出してくれる仕組みの裏返しでもあります。自分で始めなくても積み上がっていくかわりに、知らないうちに始まっていて、知らないうちに止まっているということも起こりえます。優劣の話ではなく、性質のちがいだと思います。制度がある人にはその分だけ、自分がいま何に入っているのかを確かめる手間が残されている、ということなのかもしれません。
📝 まとめ
- 💴出しているのは「会社」か「自分」か「自分と会社の両方」か、3つとも別です。企業型DCで会社が出す掛金は会社のお金で、給与から差し引いて本人に負担させることは認められていません。マッチング拠出は自分の給与ですが全額が所得控除。持株会も自分の給与ですが、こちらは税を引かれたあとのお金で、そのかわり会社が奨励金を上乗せします(その奨励金は給与として課税されます)。
- 🔄マッチング拠出の「会社の掛金を超えられない」は、2026年4月1日に撤廃されました。政令の条文が「事業主掛金の額を超えないように」から「合計額が拠出限度額を超えないように」へ入れ替わり、厚生労働省も比較の時点を問うQ&Aを削除しています。ただし実際に出せる金額は、会社が規約を変えているかどうかで決まります。
- 🩹「社会保険料も安くなる」という説明は、マッチング拠出ではなく、給与そのものを減らして掛金にする方式の話だと考えられます。その場合は将来の年金・傷病手当金・失業給付が減ることもあります。マッチング拠出は税が軽くなる仕組みで、給与の額を下げるものではありません。
- 🏬持株会は、買うのは自動でも、やめるときは自分の判断になります。定時定額の買付はインサイダー取引規制の適用除外ですが、その適用除外は「買うこと」にしか及びません。退会にともなう売却は対象外で、拠出額の変更も、未公表の重要事実を知っている場合にはできません。一度退会すると、原則として再入会はできません。
- 🧨勤め先が立ちゆかなくなったとき、居場所がちがいます。企業型DCの掛金は法律で信託銀行や生命保険会社に預けることが義務づけられていて、会社の財産とは別のところにあります。持株会が持っているのはその会社の株式そのものです。給与と資産が同じ一社に集まることについて、日本の公的資料に注意書きは見つけられませんでした。ただし企業型DCには、自社株ファンドなどを並べるならほかの分類から3つ以上そろえるという分散の義務が法令にあります。
- 🚪話題は商品選びに集まりますが、止まったままなのは辞めたあとです。自動移換された人は138万人で、毎年10万人前後ずつ増えています。そのうち43.9%(約60万人)は資産額が0円で、残高が残っているのは約78万人。移されると無利息の現金になり、4,348円と毎月98円の手数料がかかり、その期間は受け取り開始年齢を決める期間に算入されません。期限は「退職から6か月」ではなく「資格を喪失した日が属する月の翌月から6か月」です。
この記事を書く前は、「会社の制度をどう使うか」という話になるだろうと思っていました。使ったほうが得なのか、いくらまで出すのが良いのか、という方向です。
実際に条文と統計を並べてみると、手前に確かめることがありました。自分がいまどれに入っているのか。その掛金は誰のお金なのか。そして会社を離れるときに、自分の側でしなければいけないことが残っていないか。使い方の話は、そのあとでも間に合います。138万人が止まっているのは、使い方を間違えた場所ではなく、手続きが残ったままの場所でした。
今回いちばん手が止まったのは、自動移換された138万人のうち、4割強にあたる約60万人の資産額が0円だったところでした。人数の多さより、その内訳のほうに驚きました。「138万人分の年金が宙に浮いている」という言い方は、数としては合っているのに、中身をまるごと落としている。逆に、お金が残ったまま止まっている78万人のほうは、この言い方だと数字の中に埋もれてしまいます。大きい数字を見ると分かった気になるけれど、内訳を開けるまで、その数字が何を数えたものなのかは分からない。マッチング拠出の上限が4月に変わっていたことも、条文を新旧で並べるまで気づけませんでした。調べる前の私が持っていた「知っているつもり」は、だいたい何年か前の話でした。
・iDeCoと新NISA、どっちが先?(自分で開くほうの制度の話)
・生活防衛資金はいくら必要?(失業給付・傷病手当金がどこまで守るか)
・投資の利益にかかる税金、結局いくら引かれる?(売ったときに何が起きるか)
・全部株でいいの?(持っているものが偏っていないかを見る話)
・毎月いくら積み立てればいい?(自分で出す額の決め方)
・経済用語辞典(記事に出てくる言葉をまとめています)
以下の法令および一次資料で照合して作成しています(すべて2026年8月14日に取得)。
- 確定拠出年金法および同法施行令(現行版のほか、2024年12月1日版・2026年4月1日版・2026年12月1日版の条文を比較)、所得税法および同法施行令、金融商品取引法、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令
- 厚生労働省「確定拠出年金Q&A」(2026年4月1日現在)、法令解釈通知「確定拠出年金制度について」、事務連絡「確定拠出年金Q&Aの改正について」(2026年3月27日・新旧対照表)、「DC拠出限度額」(2024年12月以降/2026年12月以降)、「企業型年金の規約数等の推移」(2026年2月24日更新)
- 運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料」(2025年3月末)
- 国民年金基金連合会「iDeCo(個人型確定拠出年金)の制度の概況」(令和7年3月末現在)、国民年金基金連合会・特定運営管理機関「自動移換にかかる手数料改定のお知らせ」および特定運営管理機関の案内・Q&A
- 東京証券取引所「2024年度従業員持株会状況調査結果の概要について」(2026年2月16日公表)
- 日本証券業協会「持株制度に関するガイドライン」(2025年6月12日改正)、「2024年以降のNISAに関するQ&A」(2025年9月)
【免責事項】本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品や特定の制度の利用を推奨するものではありません。また、投資助言を行うものでもありません。ここで扱った制度は、掛金の額・選べる商品・手数料の負担などの多くがお勤め先の規約で決まるため、同じ制度名でも条件は会社ごとに異なります。統計は各機関が公表した時点の数字であり、その後の状況を示すものではありません。制度・数値は2026年8月14日時点で確認できた法令および公表資料にもとづきますが、法令も税制も変更されることがあります。実際の手続きや判断は、お勤め先の規約と公式の案内をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。


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